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最高裁判所第一小法廷 昭和30年(あ)28号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人古屋東の上告趣意第一点について。

所論は、原判決は昭和一七年(れ)一五九七号同一九年四月二八日宣告大審院第三刑事部判決の示した判例と相反する判断をした旨主張する。しかし、刑法九六条の三第二項のいわゆる談合罪の成立要件ことに同条項の「公正ナル価格」の意義については、原判決前昭和二八年一二月一〇日当法廷決定(判例集七巻一二号二四一八頁以下参照)において判示したところであって、原判決は当法廷の右判例に従ってなされたものと認められるから、所論は刑訴四〇五条三号の前提要件を欠き同号に当らないものである。しかのみならず、原判決の判断は、所論大審院の判例とも合致しこれと相反する判断をしていない。ことに原判決は、所論のごとく結局業者が価格について協定をした以上それは総て自由競争の機能を失わしめるものである旨、又は、結局金額と社会常識との点に同犯罪成否の焦点を置く旨の判断等をしていないのである。されば、所論は、刑訴四一一条一号の職権事由としても採ることができない。

同第二点について。

所論は、事実誤認の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また、所論につき記録を調べても、同四一一条三号を適用すべきものとは認められない。

弁護人牧野良三、同新家猛、同鍛冶利一、同坂野滋の上告趣意第一点について。

所論は、大審院の判例違反をいうが、その採るを得ないことは、古屋弁護人の上告趣意第一点について説明したとおりである。

同第二乃至第四点について。

原判決は、挙示の証拠に基づき、被告人等は、昭和二五年一月頃から富山県において施行された工事の入札の例に従い、工事の請負入札につき自由競争を避けるため落札者及び落札価格を協定し、協定により定めた者が落札者となった場合は、その者は落札価格の約三パーセントの談合金を提供し、その金の一部をもって落札者を含めた入札指名者間の飲食費にあって、残金は入札指名者間で分配することを知悉しながら同年五月二三日施行された判示入札に際し、判示協定をなし、判示のごとく入札、落札し、判示のごとく談合金合計三〇万五三〇〇円を費消、分配した事実を認定した上、「右に認定したように初めから自由競争を避けるため談合により入札する意思の下に、落札者を定め、その者の一方的に定めた入札価格以上に他の入札指名者が入札することを協定することは、競争入札の機能を失わすもので結局入札上の公正なる価格を害することを目的として行われた談合というべき」旨、並びに、「本件落札者が提供した落札金額の約三パーセントの金員は、その金額、分配の方法からして社会常識上儀礼的なものその他正当のものとは認められない。しかるに、被告人等は、初めから落札者が提供する落札金額の約三パーセントの金員の一部を談合者の饗応接待費にあて残金を談合者に分配する意思の下に協定したものであって、いわゆる不正の利益を得る目的をもって談合したものというべきである」旨説示し、従って被告人等は、いずれも、公正な価格を害し、かつ、不正の利益を得る目的をもって談合したものと断ぜざるを得ないのであると結論しているのである。

以上原判決の認定、説示によれば、本件落札価格は、入札施行者に対し、少くともその三パーセントが公正な自由競争によって形成されたであろう価格よりも不利益な価格であると推認されること判文上自ら明らかであり、被告人等はこれを認識し意図し、この認識意図の下で協定したものであると認められるから、原判決は、論旨第二点引用の東京高等裁判所の判例並びに論旨第四点引用の当法廷の判例に反する判断をしたものということはできない。

次に、原判決は、前述のごとく、本件落札金額の約三パーセントの談合金(すなわち合計三〇万五三〇〇円)は、その金額、分配の方法からして社会常識上儀礼的なものその他正当のものとは認められないというのであって、その認定は肯認できるから、かかる金員の授受を目的とする談合を以て「不正ノ利益ヲ得ル目的ヲ以テ談合シタル」ものに当る旨判断したのは正当であること勿論であって、論旨第三、第四点引用の判例に反する判断をしたものとも認められない。

よって、刑訴四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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